マンションの区分所有者になれば、管理費と修繕積立金を負担しなければなりません。
マンションの共用部分を対象に、日常の維持管理業務に使用するために必要な管理費、数年に一度の大規模修繕工事に備えるお金を修繕積立金と呼んでいます。
本コラムでは、大規模マンション、タワーマンション、小規模マンションの事例を取り上げ、管理費と修繕積立金の視点からどのようなマンションがお得かをお伝えすることとします。是非、マンション選びや入居中のマンションの管理状態を判断する際の参考にして下さい。
大規模マンション
始めに、東京都大田区に所在する専有面積75.48㎡、月額管理料7,200円(95.3円/㎡)、月額修繕積立金14,910円(109.8円/㎡)の大規模マンションの事例です。
ここでは国土交通省による「マンション総合調査(以下、総合調査)(※1)」ならびに「マンションの修繕積立金に関するガイドライン(以下、ガイドライン)(※2)」を参考に、事例マンションの管理費・修繕積立金の妥当性を見ていきます。
総合調査やガイドラインの平均値などに比べ、事例マンションは管理費と修繕積立金共に割安感があり、長期修繕計画(※3)によると、修繕積立金を値上げしなくても、30年程度は資金不足にならない見通しになっています。これは大規模マンションゆえのスケールメリットによるものと言えます。
但し、40~50年が経過すると給排水管の取替工事などが必要となり、これまで実施した大規模修繕工事に近い金額の修繕費が発生する可能性があります。
それが現在の長期修繕計画には見込まれていないため、将来的な資金不足が心配されます。
現段階では、管理費や修繕積立金が割安であっても、資金不足にはなっていないマンションと言えます。但し、今後の修繕計画を確認していく必要はあります。
※1 国土交通省が、管理組合・区分所有者向けに5年に1度行っているマンション管理の実態を把握するための調査で、地域別の平均的な管理費が記載されている 001287412.pdf (mlit.go.jp)
※2 国土交通省が、マンションの購入予定者及びマンションの管理組合・区分所有者向けに、修繕積立金に関する基本的な知識や、修繕積立金額の目安を示したガイドライン001080837.pdf (mlit.go.jp)
※3 将来予想される修繕工事等を計画し、必要な費用を算出し、月々の修繕積立金を設定するために作成するもの。将来の修繕積立金の累計金額と発生する工事費から収支が予測できる。
タワーマンション
続いて、東京都中央区にある専有面積60.28㎡、月額管理費26,010円(431.4円/㎡)、月額修繕積立金13,820円(229.2円/㎡)のタワーマンションの事例です。
管理費は、総合調査にある平均値の2倍以上と割高に設定されています。
豪華な共用設備に加え、コンシェルジュや夜間警備員を配置するための人件費や維持コストが高くなるというタワーマンション特有の理由によるものです。
他のタワーマンションでも、管理費は割高な傾向になっています。
一方の修繕積立金は、ガイドラインによる計算値(338円/㎡)に比べ割安になっており、現在の中期修繕計画でも資金不足は生じない見通しになっています。
但し、給排水管やエレベーターなど大規模設備の更新工事(一般的に機械式駐車場は25年前後、エレベーターは30年前後、給排水管は40年前後)が修繕計画には含まれていません。
その結果、現段階では妥当な修繕積立金額ですが、大規模マンションの事例と同様、30~40年目以降に修繕積立金が不足して値上げになる可能性があります。但し、その場合でもタワーマンションのスケールメリットがあるため、ガイドラインにある平均値程度になると予想されます。
小規模マンション
最後に、管理費や修繕積立金に地域差があるかどうかも確認するため、千葉県木更津市にある専有面積59.15㎡、月額管理費16,000円(270円/㎡)、月額修繕積立金10,650円(180円/㎡)の小規模マンションを紹介します。
ここには管理人は常駐していますが、コンシュルジュやゲストルーム、フィットネスクラブのような豪華な共用施設はありません。
それにも関わらず総合調査の平均値と比べ、管理費が割高になっています。小規模マンションのためスケールメリットがないことが理由と考えられます。一方で人件費については、都市部の方が高くなりがちですが、管理費に及ぼす影響は大きくありません。
修繕積立金は、ガイドラインによる計算値(335円/㎡)に比べて一見割安に見えますが、実はそうではありません。長期修繕計画を確認したところ、30年後には約1億7300万円、㎡当たり45,000円が不足する見通しになっています。この不足額を30年で賄うとすれば、今のうちに180円/㎡から305円/㎡に増額する必要があります。
今だけ見ると割安ですが、将来修繕積立金が不足するため値上げが必要となるマンションだと言えます。今後、経年劣化し修繕箇所が増えてくれば、修繕積立金も徐々に割高なっていく可能性もあります。
管理費・修繕積立金に対する疑問
~長期修繕計画の内容は、素人が見ても分かるものですか?~
それほど難しくものではなく、四則計算(足し算、引き算、掛け算、割り算)が出来れば理解できます。但し、計画の妥当性を判断する目的に照らしたときに、どの項目がポイントかというところが分かりづらいかと思います。そこは不動産エージェントに相談されることをお勧めします。
~どのような入居者の方が居れば、管理が良くなっていきますか?~
一概には言えませんが、意識の高い特定の区分所有者が理事会や専門委員会などをリードしているマンションは、比較的良好な管理状態が保たれています。但し、特定の区分所有者が理事を長年続け、周りの意見に耳を貸さないような独裁化したマンションにもなり得る危険性があります。
あるいは、特定の人が中心となり、他の区分所有者を巻き込んで委員会を立上げ、修繕は修繕委員会、会計は財務委員会、地域との調整は渉外担当といった方法で、各責任者に任せる方法もあります。業務を細分化すれば理事の負担は軽減され、委員会メンバーも一年交代にしなければ、継続性が維持し良好な運営が続くこともあります。
~修繕積立金の不足は、内見だけでは分かりにくいのではないですか?~
内見した時に、管理運営の方法に問題がないか、あるいは無関心になっていないかを仲介業者へヒアリングするとか、マンションの共用部分をじっくり観察してみてください。修繕積立金が不足したままの状態で放置されていれば、共用部の破損や汚損など何かしらの問題が表面化してくる可能性が高まります。
~購入を検討しているマンションの管理に不安があればどうすれば良いですか?~
例えば、購入後にご自身で管理を良くしていく方法もあります。管理が悪い状態のままで良いと思っている区分所有者は、まずいません。区分所有者の大半は、誰かが旗振り役になり改善して欲しいと考えているものです。
特定の区分所有者が旗振り役となり、他の区分所有者をリードし改善に取り組んでいるケースも見られます。まずご自身が率先して手を挙げ、問題意識を持って取り組んでいくことが、管理の改善ひいては資産価値向上に繋がっていくと思います。
~他の区分所有者の方を動かすポイントは何ですか?~
区分所有者同志で直接コミュニケーションを取り合うのは、それほど簡単ではありません。
まずは、管理会社と適切な距離感を保ちつつ、受託者として本来のあるべき仕事をしてもらうために、どのようにつき合っていくかがポイントになります。
管理会社は営利企業であるため、採算に乗りにくい業務ばかりしていては組織の継続性が保てません。そのため、管理組合と利害が対立し、「管理会社は動いてくれない」「上手くまとめてくれない」といった不満が出てくる場合があります。
そこで大切なことは、管理会社の担当者をよく見極めることです。当初から管理組合や理事会とスムーズなコミュニケーションが取れないとか、人事異動で担当者が変更になった途端に、管理会社とギクシャクすることも見受けます。このような場合は、担当者を変えて貰うことを管理会社に相談するのも一つの手段です。
マンション購入予定者の方へのメッセージ
マンション販売の現場では、買わせる営業が中心で、管理は後回しにする会社が少なくありません。しかし、購入にあたり大事なポイントは、やはり管理です。
なぜなら、管理は区分所有者の意識と行動で改善することができるからです。それに比べ、立地や建物の構造を変えることはできません。立地の資産価値が上がるかどうかは、ある意味で運任せだと言えます。
管理が良いマンションに入居するなら、管理組合の運営にも積極的に参加して下さい。
反対に管理への関心が高くないマンションだとしたら、自分が変えていくという意識を持つことで、ひょっとするとマンションの管理が改善していくかもしれません。それは購入者のみならず、他の区分所有者にも恩恵をもたらしていきます。
最後に、マンション購入に当たっては、現状における管理の良し悪しに加え、入居してから自分で管理を変える、変えていきたいという意欲があるかどうかしっかりと考えた上で、判断をされることをお勧めします。そして、管理についても十分な専門知識と経験を持ち、コミュニケーション能力がある不動産エージェント探しも大切なことです。
詳しくはこちらの動画でも解説をしています。